創業10年を迎えて

当社設立の2013年3月28日から満10年が経過しました。多くの方々に支えられてここまでこれたことを感謝します。ありがとうございました。

これまで「誰もが場所にしばられずに協働できる社会の実現」をミッションとして、サードワークプレースと働き方の変革に焦点をあてて活動を行ってきましたが、サードワークプレースの認知度は上がり、ペーパーレスやDXへの取り組みは動き始めたので、関連する需要には継続的に取り組みつつ、今後はコミュニティサポートに焦点をあてて活動をしていくこととします。

「誰もが場所にしばられずに協働できる社会の実現」を目指したのは、前職でアメリカ赴任した時の経験に基づいています。その土地に住んで、その土地で活動しなければ得られないことがあるのはもちろんですが、同時にその土地にいなくてもできることは思いの外多いことにも気づきがありました。その場所にいなくても複数の現場に関わりを持って社会活動ができたら良いのにと思って考えた理念です。

20年前、2003年にはSARS発生がありました。当時システム運用を受託組織に属していたこともありBCPを意識するようになりました。もしパンデミックなどで出社がかなわなくなった場合、どう業務を継続するかを考えなくてはならなったのを思い出します。それが、リモートでビジネスを進めることを初めて考えたタイミングでした。

ひとたび事件が発生すれば、特に製品やサービスを顧客に提供する部門は厳しい現実に直面します。2011年の東日本大震災では、様々な困難に直面し、改めてビジネスを継続するために必要なことは何か、どう対策を打たねばならないかが問題となりました。もちろんパンデミックや放射能汚染などについても考えなければいかなくなり、その場所に行かなくてもできることを増やすことになりました。企業からすれば、それはリスク対策であり持続可能性の向上施策ですが、従業員、生活者からすれば技術的には場所にしばられずに働くことができる自由が獲得できる余地が広がったことにほかなりません。

創業した2013年頃は、まだ生活者側でその自由拡大の可能性に注目する人は多くありませんでした。ただ、欧米のプログラマなど研究開発業務に従事する人の中には経済的にも自立したフリーランサーも増え、コワーキングスペースも台頭し始めた時期に当たります。ネットワークが繋がっていれば自宅でも望めば国外にいてもプログラミングはできるし、複数の顧客と付き合いながら生きていくことができる人はいます。プログラマに限らず、事業者はリスクを考えると場所に縛られることなく業務執行ができるアクティビティを拡大しないわけにはいきません。一方で、リモートワークを実践していたフロンティアの人たちは2010年頃には既に人と会うことの重要性に気がついていました。個人的に行う集中作業は自宅環境を整えれば生産性を向上させることが可能ですが、他者と接することによる気付きや仲間の存在から得られる安心感の重要性を無視することはできません。企業の従業員はオフィスで同僚に日常的に会っているため、後者の価値に気づくことはなかなかできませんでした。

2020年のCOVID-19は世界を一変させました。企業は最優先で出社することなく業務遂行ができる環境整備を行わざるを得なくなり、多くの人が自分の業務の多くの部分がオフィスにいかなくても遂行可能になりました。同時に、持続性観点から劣後しても良い業務はどんどん切り捨てられました。中小企業も含めて企業のクラウド対応は大きく進み、移行期に必要なプロフェッショナルサービス需要も大きく高まりましたが、3年を経てIT特需はほぼ終息し時代は変わりつつあります。生き残った企業もビジネス環境がもとに戻るわけではなく新たな改革が必要になります。業務にもよりますが、恐らく長期的には平均では出社は2割程度で十分となるでしょう。

リモートワークの常態化によって、企業の従業員も他者と接することによる気付きや仲間の存在から得られる安心感の重要性 - 会うことの価値を強く意識するようになりました。振り子が振れるようにオフィス回帰の流れも起きていますが、近い将来に自分が複数のコミュニティに属していることに気がつく人は増えます。実際、オンラインミートアップは距離の壁を越えて継続的に実施されていて、物理的な居住地に縛られないコミュニティの有意義さに気がついている人は着実に増えています。新たに社会に出る層であればより柔軟な対応が可能です。家族も含めマルチコミュニティに所属しつつ時々に応じてどこに多くの力を割くかを調整してく時代が来るでしょう。

手本となるのは、オープンソースのコミュニティです。昔の学会のようなコミュニティ活動と近いものはありますが、具体的な問題解決のために力を合わせ知財を共有することが可能となっている点で進歩しています。相当な時間がかかるでしょうが、やがてWeb3のDAOのような動きに成長していくでしょう。低コストでスケーラブルなコミュニティサポートの仕組みがあれば、フリーランスプログラマのようにコミュニティのメンバーが自立できる確率も上がります。自立しているメンバーが増えれば、インフラのレベルを上げていくことも可能になります。

人が会うことの価値は今後さらに高く評価されることになると思いますが、会わない時期にもコミュニティ活動が維持できる未来が望ましい未来だと考えます。コミュニティは一度組成されれば社会的な存在なので何らかの形で社会的な責任を担う存在となります。生活者ももちろん一定の社会的責任を負わなければ社会の持続性は維持できません。専制と隷従の形態に陥らない健全なコミュニティの組成に貢献すること、それを今後の挑戦テーマとおいて新たな活動を開始します。

日本でも、地域活性化への取り組みなどで既に地域に閉じていない新たな活動がそこここで起きており、これから大きな動きとなっていく思われます。物理的な場所を前提としないコミュニティの組成を可能にする技術の提供で力を出していこうと思います。

2023年3月28日

萩原高行